薄毛が気になる部分に、髪の毛や髪の毛の代替品を直接植えつける施術のことを「植毛」と呼びます。植毛は、自分の後頭部の毛を頭皮組織(ドナー)ごと切り取って移植するタイプの「自毛植毛」と、自分のものでない人工毛を植える「人工毛植毛」に分かれます。
いずれの場合も、外科的な手術によって髪の毛が薄くなった部分をカバーし、髪の毛が増えたように見せることが出来ます。
髪の毛の悩みについて調べていると「育毛」「増毛」「発毛」など、さまざまな用語を目にする機会がたくさんあります。しかし、それぞれの違いが分からず結局何が自分にとって必要な治療、または施術なのか分からないと感じた方は少なくないでしょう。
きちんと自身が納得のいく治療を受けるためにも、まず正しい認識を持つことが重要です。「植毛」とこれらの違いについて、簡単に確認しておきましょう。
育毛は“今ある毛”を健やかに育むことを指します。したがって、育毛剤と呼ばれるものは保湿ケアを施したり、血行を促進をさせたりして頭皮環境を整え、健康的な髪の毛の維持を期待するものです。頭皮マッサージなども育毛をサポートする施術と考えられるでしょう。
投薬治療などで新たな髪の毛を生やすことです。具体的には、治療薬を用いて薄毛の原因と呼ばれる男性ホルモンの影響を抑制し「ヘアサイクル」を改善させて髪の毛を生やしていく行為や、髪の毛の成長を促す細胞に働きかけヘアサイクルを延長させることなどを指します。
今ある髪の毛をベースに人毛や人工毛を結び付ける「結毛式」や、髪の毛が生えたようなシートを頭皮に貼りつける「接着式」を用いることで髪の毛が増えたように見せる技術です。施術を受けたその日からボリュームが出るため、すぐに“見た目”をどうにかしたいという方には向いている施術でしょう。いずれの方式も医療行為にはあたりません。またレーヨンや炭、繊維などで作られたパウダーを振りかける方法などもあります。
先ほども少し説明していますが、植毛には大きく分けて「自毛植毛」と「人工毛植毛」の2種類が存在します。どちらも植え付けるという意味では同じ“植毛”ですが、その方法は大きく異なります。
次からは自毛植毛と人工毛植毛、それぞれの仕組みについて詳しく解説していきます。
現在行われている植毛のほとんどが、この自毛植毛です。AGA(男性型脱毛症)では、薄毛の影響を受けるのは主に“前頭部と頭頂部の毛組織”とされているため、植毛を行うためのドナーは後頭部から採取します。AGAの影響を受けない後頭部の毛組織を脱毛部に移植するため、自毛植毛を行うことで薄毛の改善が期待できます。
移植した毛組織が生着すれば、脱毛の起きていない部分の髪の毛と同じように成長します。また自毛植毛はドナーに自分自身の毛組織を使用しているため拒絶反応が少なく、生着率が高いのも特徴です。
生着後の毛髪に特別なメンテナンスは必要ありませんが、元からある毛髪はAGAの原因物質を作る「5αリダクターゼ」の影響を受け続けるので、時間が経つにつれて薄毛が進行します。そのため、自毛植毛後もAGA治療を継続することが重要です。失敗のリスクは比較的少ないといわれていますが、術者の技術により生着率が変わるため病院選びは慎重に行いましょう。
ひと口に自毛植毛といっても、その方法はさまざまです。ここでは、自毛植毛の施術方法について詳しく説明していきます。
FUT法では後頭部から帯状にドナーを採取し、それを顕微鏡下で株分けします。一方でFUE法は、小さなパンチで一つひとつのドナー株を直接くり抜く方法です。パンチでくり抜いたドナー株は特殊なピンセットで引き抜きます。この手法では縫合の必要がなく、頭皮に空いた穴はしばらくすると自然に閉じて髪の毛で隠れるようになり、傷跡が目立たなくなります。
皮膚切開をする場合は、皮膚のしわの向きに合わせて切開をするのが基本です。頭部の場合、皮膚のしわは横向きのため横向きの切開をします。FUT法の場合、AGAの影響を受けない後頭部の下部からドナーを採取します。FUT法の場合は、複数回のドナー採取ができないので注意が必要です。
また、ドナーはAGAに影響を受けない部位である「大後頭隆起」と呼ばれる後頭部のでっぱりの下から採取できます。
投薬治療などで新たな髪の毛を生やすことです。具体的には、治療薬を用いて薄毛の原因と呼ばれる男性ホルモンの影響を抑制し「ヘアサイクル」を改善させて髪の毛を生やしていく行為や、髪の毛の成長を促す細胞に働きかけヘアサイクルを延長させることなどを指します。
移植希望範囲に開けるスリットの角度や間隔によって毛の生える方向や間隔が決まるため、いずれの手法も医師の手技によって仕上がりが左右されます。また、手技に熟練度が大きく影響するため、有効グラフト数(移植可能な毛髪)の採取率は施術した医師によって大きく異なります。またドナー(患者様)の頭皮環境なども影響するため、総毛髪数が減少することが問題点です。
どちらの方法も傷跡の残り方が異なるうえ、採取するグラフト数によっても傷跡の大きさや範囲の広さは異なるため、自毛植毛を検討する際はその点も含めてしっかり医師と相談する必要があります。
自毛植毛の施術方法においては、ここまでに紹介したFUT法とFUE法の2種類が主流となっています。
「単一植毛」とも呼ばれる方法。サイズの違う数種類の植毛針を使用して、穴開けと植え込みを同時に行います。仕上がりが美しいことが長所ですが、植毛針にグラフト(移植株)をセットする際、植毛針のサイズに合った正確なグラフトを数種類作成する必要があり、株分けの段階でグラフトの余分な組織をかなり削ぎ落とさなければならないため株分けに時間を要します。
植毛は株分けをなるべく短時間に行い、グラフトを早く移植することが定着率に大きく関わるため、広範囲を対象にすることが難しい施術です。短時間に株分けを行うには多くの熟練したスタッフが必要となるため、それだけ費用も高くなります。
冷却による新鮮保存機能付ドリルで、速やかに頭皮からドナーを抜きとり、医師の技術で自然な毛の流れを再現する方法です。採取後、すぐにドナーを冷却することで新鮮な状態を保ったまま脱毛部に植付けるために、“生着率がこれまでの植毛より高い”といわれています。
また、ランダムに毛を採取できるため髪型によっては傷口が目立ちにくく、傷は24時間以内に閉じるので負担も少ないといわれています。しかし、こちらも切開する方法よりも傷跡が目立ちにくいとは一概にいえないでしょう。自然な仕上がりになるよう医師がドナー株を植える必要があるため、施術する医師の手腕が重要になる方法です。
生着率を高めるためには、以下の条件が重要です。
ドナーを採取してから移植するまでの時間が短い
ドナー採取時に、多くの毛組織を採取できている
顕微鏡下で毛組織を一つひとつ分ける際、株分けが丁寧に行えている
これらの条件が整っていないと植毛箇所でドナーが生着しにくくなり、術後に髪の毛が抜け落ちてしまう確率が高くなります。
人工毛植毛は、その名の通りナイロンやポリエステルなどで作られた人工毛を脱毛部に移植する方法です。
このようなデメリットから、日本皮膚科学会が発行するガイドラインでも評価が低く、施術すべきではないとされています。一部の国では人工毛植毛を法律で禁止しており、現時点ではおすすめできる手法とはいえません。
植毛で失敗しないためには、クリニック選びが鍵となります。クリニックの実績、技術力はもちろん、カウンセリングなど手術までのプロセスが丁寧であるかも大切なポイントです。
また、クリニックがどの施術方法を採用しているかも確認しておきましょう。自毛植毛の方法は、先述の通り「FUT法」と「FUE法」の2種類が主流です。施術方法によって仕上がりや生着率、費用、痛みの強さなど、細かい点で違いがあります。費用のみを基準にクリニックを選ぶのではなく、様々な情報をきちんと考慮した上でクリニックを選びましょう。
最近では、ロボットによる植毛技術も確立されています。「FUE法」を選択する場合には、ロボットによる施術なのか、術者による施術なのかも併せて確認するようにしましょう。
薄毛治療といっても、薄毛の原因によって治療法は異なります。ガイドラインにおいて自毛植毛術が“推奨度B”であることは先述した通りですが、当然ながら“推奨度A”の治療法も存在します。それが「ミノキシジル」の外用薬と「フィナステリド」や「デュタステリド」の内服薬を用いた治療です。
それぞれ、どのような治療法なのかみていきましょう。
ミノキシジルを配合した外用薬は、薄毛や抜け毛が気になる部分に直接塗布して使用します。アポトーシス(細胞死)と呼ばれる現象を抑制することで、ヘアサイクルの成長期を延長したり、毛母細胞を刺激して休止期を短縮したりする作用が起こり、発毛を促す効果が期待できます。
治療薬の費用は、1カ月で約10,000円程度が目安です。
フィナステリドを配合した内服薬には、AGAの原因物質であるDHTをつくる酵素5αリダクターゼを阻害する働きがあります。これにより、DHTによって短縮されたヘアサイクルを正常な状態に近づけることができ、毛髪を太く長く成長させられるため薄毛の改善が期待できます。
治療薬の費用は、1カ月5,000円程度と比較的安価で取り扱うクリニックが多いようです。
デュタステリドは、フィナステリドと同様の作用が認められたAGA治療薬です。両者の違いは、フィナステリドよりデュタステリドの方がAGAへの発毛効果が高い点。
1カ月あたりにかかる費用は、フィナステリドより高い場合がほとんどです。
これらの医薬品はAGA治療専門クリニックなどで診察を受け、使用を開始するのが一般的です。個人輸入などで購入することもできますが、誤った用量の服用による体への影響や偽物など粗悪品のリスクがあるため、個人輸入は避けましょう。
自毛植毛について、ガイドラインには「フィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルによるAGA治療を受けたのち、効果が得られない場合に自毛植毛を考慮する」と記載されています。外科手術のみではAGAの進行を継続的に防ぐことは極めてむずかしく、体への負担も大きくなるため、まずは内服薬や外用薬による治療を行いましょう。
AGAは進行性の脱毛症であるため自然治癒することはありません。放置しているとヘアサイクルの乱れにより薄毛が進行してしまいます。薄毛治療専門のAGAヘアクリニックには、豊富な知識と経験を持った医師が在籍しています。少しでも薄毛治療をお考えの方は、まずは当院へお気軽にご相談ください。
医師監修のもと、AGA治療の基礎知識や
薄毛対策に関するトピックをお届けします。