壮年性脱毛症とは壮年期(30〜40代)に多く見られる脱毛症のことをいいます。“男性型脱毛症(AGA)”や“若ハゲ”などと呼ばれることもあり、主に額の生え際や頭頂部から髪の毛が薄くなっていく特徴があります。壮年性脱毛症の症状は一般的に加齢と共に深刻化していくと考えられています。
壮年性脱毛症は前述のとおりAGAとも呼ばれる症状です。したがって、原因や対策は同じであるといえます。
壮年性脱毛症というと、30〜40代の壮年期に限った脱毛症のように感じられますが、AGAは思春期以降の20代から60代以上の高年期まで発症する可能性があります。壮年性脱毛症もAGAと同じ症状であるため、20代〜60代以降まで幅広く発症することが考えられます。
壮年性脱毛症のしくみはAGAと同様に、主に男性ホルモンが深く関わっています。まず、壮年性脱毛症による薄毛や抜け毛の仕組みを知るためには、「ヘアサイクル(毛周期)」について理解しておくことが重要といえます。
髪の毛が成長する過程には、その1本1本にヘアサイクルと呼ばれる一定の周期があり、通常は約1000〜2000日かけて1周するとされています。ヘアサイクルは「成長期(早期・中期・後期)」「退行期」「休止期」の大きく3つの段階で構成されています。
髪の毛が最も活発に育まれる成長期はおよそ2〜6年、髪の毛の伸長が止まり細胞の自然死(アポトーシス)によって毛包が退縮していく退行期は2〜3週間、毛包の活動が停止する休止期は3〜4カ月の期間を経てヘアサイクルが成り立ちます。
またヘアサイクルには寿命があり、生涯で繰り返される回数が決まっているため、ヘアサイクルが完全に終了した時点でその髪の毛は寿命を迎えます。壮年性脱毛症は主に男性ホルモンの影響により、ヘアサイクルが極端に短くなり、髪の毛が正常に成長できなくなることで薄毛や抜け毛に変化していってしまう症状なのです。
壮年性脱毛症は主に「テストステロン」と呼ばれる男性ホルモンの一種が体内の還元酵素「5αリダクターゼ(5α還元酵素)」と結合して生成される、より強力な男性ホルモン「DHT(ジヒドロテストステロン)」に起因して起こります。
DHTが「アンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)」と結合すると、通常は髭や体毛を濃くする働きを持つ細胞成長因子「IGF-1」などを生成します。しかし前頭部や頭頂部においては脱毛因子と呼ばれる「TGF-β」などが産生され、毛母細胞の増殖を抑制し軟毛化を引き起こす働きを持つことがわかっています。
またDHTに対する感受性が強い人の場合、前頭部や頭頂部ではTGF-βなどの脱毛因子が産生されることによってヘアサイクルの成長期が極端に短縮されてしまいます。その結果、髪の毛が十分に育たなくなるため抜け毛や薄毛が進行すると考えられています。
さらにDHTを生成する5αリダクターゼにはⅠ型とⅡ型があり、主にⅠ型は全身の皮膚や皮脂線に、Ⅱ型は前立腺や髭、前頭部・頭頂部の毛包に存在しています。そのため、壮年性脱毛症に多くみられる前髪やつむじ周辺の薄毛には主にⅡ型の5αリダクターゼが関わっているといわれています。
近年の研究では、壮年性脱毛症は男性ホルモンだけでなく生活習慣や遺伝も関わっていることが明らかになってきています。
壮年性脱毛症の対策は様々あります。日常生活の中でできる対策もあるので、ここからはいくつか詳しくみていきましょう。
過度な飲酒や喫煙、質の悪い睡眠などの不摂生は育毛に良い生活とはいえません。これらを改善することで壮年性脱毛症の進行を抑制できる可能性もあります。
「成長ホルモン」は育毛に重要なホルモンの一種。成長ホルモンが多く分泌されるのは、入眠後3〜4時間で訪れるノンレム睡眠時といわれています。慢性的な睡眠不足や質の悪い睡眠が続くと成長ホルモンが十分に分泌されず、正常な育毛が妨げられることが考えられるため、睡眠の質を高めることが大切といえるのです。
正常な育毛を促すには、食べ物からの栄養摂取は欠かせません。主にタンパク質や亜鉛などの摂取は髪の毛に良いとされています。また様々な栄養素を相互的に働かせるには、ビタミンやミネラルも必要不可欠です。多少の栄養不足が直接的に薄毛や抜け毛に繋がることはないと考えられますが、過度な栄養素の欠乏は育毛を妨げることがわかっています。育毛環境や頭皮を健康的に整えるためにも、栄養バランスの整った食生活は重要だといえるでしょう。
ストレスは自律神経を乱す原因になると考えられています。自律神経が乱れると血圧が変動したり血流が悪化したりし、髪の毛の発育に悪影響を及ぼす可能性があります。このような事態を避けるためにも規則正しい生活を送るよう心がけ、適度な運動や自分に合ったストレス解消法を実践することをおすすめします。
心身がストレス状態にある時は主に交感神経の活性が優位になり、リラックス状態にある時は副交感神経の活性が優位にあるとされています。副交感神経を優位にさせるには、有酸素運動や腹式呼吸による呼吸法を行うこと、自発的な笑いを導くこと、照度の低い緑色の照明を使用することなど様々な方法があります。自分なりのリラックス方法を見出し、副交感神経の働きを活性化するとよいでしょう。
市販されている発毛剤や育毛剤を使用することも、壮年性脱毛症対策に繋がります。
発毛剤に分類される商品には、発毛を促す有効成分「ミノキシジル」が含まれています。そのため、使用することで壮年性脱毛症の改善に期待が持てます。しかし市販されている発毛剤は有効成分の濃度が低いことから、改善のペースや度合いが乏しい結果になることも予想されるでしょう。
一方で育毛剤には大きく分けて「化粧品」と「医薬部外品」に分類される商品がありますが、どちらも直接的に発毛を促す作用はありません。本来、育毛剤は頭皮環境を健やかに保つことを目的としている商品であるため、使用することで正常な頭皮環境へと整え、間接的に育毛を促す可能性はあると考えられます。
日常生活の中で改善できる対策も壮年性脱毛症の予防には大切なことですが、壮年性脱毛症による抜け毛や薄毛は根本的な治療を施さない限り、症状の進行が止まることはありません。
現在の医学では、本格的に薄毛や抜け毛を改善するには薄毛治療専門クリニックなどで治療を受けることが最適であると考えられています。薄毛治療には様々な治療法が存在するため、次からは壮年性脱毛症やAGAによる薄毛や抜け毛の治療法を詳しく解説していきます。
壮年性脱毛症は専門クリニックなどで治療を受けることができます。治療法も投薬治療から外科手術にあたるものまで多岐にわたるため、様々な治療法があることを理解した上で自身に合った治療法を決め、医師と相談しながら進めていくとよいでしょう。
現在、多くの病院やクリニックで壮年性脱毛症の改善に最も有効とされているのが投薬治療です。投薬治療に使用される治療薬には内服薬や外用薬があり、その中にも薄毛や抜け毛の進行を抑制する薬と、発毛を促す薬があります。
これらの治療薬は併用することもありますが、どの治療薬を用いるかは症状の進行度合いや予算、患者本人の希望などを考慮した上で、医師によって定められます。
既に発症している薄毛の進行を抑制する治療薬には「デュタステリド内服薬」と「フィナステリド内服薬」の2種類があります。男性の壮年性脱毛症においては、デュタステリド内服薬・フィナステリド内服薬ともに「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版(以下、ガイドライン)」にて推奨度A(行うよう強く勧める)となっている治療法です。
デュタステリドは壮年性脱毛症の主な原因となるDHTを生成する「5αリダクターゼ」の働きを抑制することで、進行している抜け毛や薄毛を改善します。先述のとおり5αリダクターゼにはⅠ型とⅡ型の2種類がありますが、デュタステリドはⅠ型・Ⅱ型の両方の5αリダクターゼを抑制する効果が期待できます。
主な副作用には、リビドー減少、勃起機能障害(ED)、射精障害、肝機能障害などが挙げられますが、いずれも発生率は低いとされています。
フィナステリドはデュタステリドと同様の作用をもたらす有効成分ではありますが、デュタステリドがⅠ型・Ⅱ型の両方を抑制する一方でフィナステリドはⅡ型にのみ作用し抜け毛や薄毛の進行を抑制します。
デュタステリドがⅡ型5αリダクターゼを抑制する効果はフィナステリドの「3倍」、発毛を促す効果が「1.6倍」とされています。またフィナステリドもデュタステリドと同様の副作用が挙げられますが、いずれも稀であるとされています。
発毛を促す有効成分には「ミノキシジル」があります。ミノキシジルは元々、血圧を下げる「降圧剤」として開発された薬剤ですが、副作用として「多毛」があらわれたことから発毛剤としての開発が進み、後に薄毛治療の標準的治療薬としての地位を確立しました。
ミノキシジルには外用薬と内服薬があり、用途によって発毛効果にやや差が認められます。
ミノキシジル外用薬は直接頭皮に塗布して使用する治療薬です。重篤な副作用が出る可能性は極めて低いといわれており、ガイドラインでは推奨度A(行うよう強く勧める)となっています。
ミノキシジル外用薬は頭皮に直接薬剤が触れるため、特に肌の弱い方の場合は頭皮の痒みやかぶれが生じることがありますが、使用を中止することで改善されます。
またミノキシジル外用薬においては市販品もありますが、含有濃度の上限が5%までと定められています。市販のミノキシジル外用薬で望むような効果を感じられない場合は専門クリニックで医師に相談することをおすすめします。
ミノキシジル内服薬は体内の血中から毛球部分にある毛乳頭を辿って効果を発揮するため、頭皮に塗布するだけのミノキシジル外用薬よりは高い発毛効果が期待できると考えられています。
壮年性脱毛症による薄毛の改善に効果が期待できる内服薬ですが、国内において臨床試験が行われていないことから、国内では未承認薬となります。しかし、適正な知識と経験のある医師の指導のもと適切に服用していくことで安全に、かつ高い効果が望める治療薬です。
壮年性脱毛症に侵されていない後頭部から健康な毛根ごと(頭皮ごと)採取し、薄毛が気になる部分に移植する施術法を自毛植毛術といいます。現在では82.5%以上という高い生着率が得られることから、男性の壮年性脱毛症においてはガイドラインで推奨度B(行うよう勧める)となっています。
しかし自毛植毛術は頭部の外科手術にあたるため、局所麻酔中毒に伴う不整脈や術後の血腫、創感染、一過性の頭皮の知覚異常などの合併症のリスクが懸念されています。近年では医療技術の進歩によって自毛植毛のリスクは徐々に軽減していますが、少なからずリスクは存在していることや、費用が高額になりやすいという部分はデメリットといえるでしょう。
メソセラピーは皮下注射などによって髪の毛の成長を促す有効成分を頭皮に直接注入する治療方法で、これまで美容などの分野で使用されてきた手法です。薄毛治療の分野においては有効成分を配合した薬液を直接頭皮に注射する方法が一般的で、副作用が少ない施術といわれていますが、アレルギー反応や感染症、頭痛、血圧の低下などの副作用が生じる可能性があるとされています。また針を使用する施術なため、多少の痛みや出血を伴ったり、施術直後は患部周辺の赤みや腫れ、かゆみが現れたりする可能性があります。
HARG療法は髪の毛の成長を促す脂肪由来の幹細胞から抽出・培養し、生成された「AAPEパウダー」と呼ばれる150種類以上の成長因子が含まれるものを頭皮に注入する治療法です。HARG療法による大きな副作用は報告されていませんが、術後に考えられる主な副作用として内出血や感染症、患部周辺のトラブルなどが挙げられます。
また成長因子を使った薄毛治療では、皮膚の深部(真皮)で炎症が続いてしまうことにより生じる「ケロイド」のような病変が注入部位にできてしまう「肉芽形成」が問題になることがあります。しかし、HARG療法に用いられるAAPEパウダーで肉芽形成や皮膚が硬くなるという報告はありません。
AGAとも呼ばれる壮年性脱毛症は様々な治療法がありますが、AGAヘアクリニックでは現在国内で推奨度の高い投薬治療をおすすめしております。
海外からの個人輸入により様々な治療薬の入手が簡単である昨今ではありますが、偽薬による健康被害の危険性や副作用が生じた際などのリスクを考慮すると、医師による診察を受けたうえで治療を開始することが、安全で安心な薄毛改善への第一歩であると考えております。
当院は医師による診察や相談は何度でも無料で受けられますので、少しでも壮年性脱毛症やAGAによる薄毛や抜け毛が気になる場合は、一度ぜひ診察へお越しください。
医師監修のもと、AGA治療の基礎知識や
薄毛対策に関するトピックをお届けします。